葱と鴨。

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「観る側にとって」大会の賞金にはどんな意味があるか

LJLの優勝賞金が1000万円になり、M-1や海外のメジャー地域に並びました。

年俸の相場はわかりませんがLJLなら有力選手を1人雇えそうな額で、チームにとって大きなインセンティブであることは確かです。リーグにとっても大きな前進でした。

 

が、今回したい話は「観る側にとって」賞金の額はどんな意味があるか、という部分。

 

前から考えてたテーマですが、ちょもすさんの「何がゲーム観戦を面白くするのか」を受けたものでもあります。ぜひこちらもどうぞ

 

賞金は、観戦者には関係ない

観戦者にとって賞金は、当たり前ですけど自分に入るわけではない、いわば関係ないお金です。

プロチームが潤えば選手やチームの環境がよくなるし、海外トップ選手の獲得や若い才能の育成にお金が回せたりして巡り巡って競技シーンが楽しくなる……という回りくどい関係はともかく、それなら賞金という形で優勝チームに渡すよりも、全チームに平等に分配した方がリーグのレベル向上にはプラスになりそうです。

 

では、観る側にとって賞金はどんな意味があるか。

私は賞金について、「選手たちが真剣に勝負していることを保証するもの」だと思っています。

 

観客は真剣勝負を望んでいます。勝利への欲望、負けることへの恐怖、選手たちの切羽詰まった感情はスポーツエンタメの大切なスパイスで、負けてもいいと思ってプレーしている選手がいたら興ざめです。

そして、勝てば1億円もらえる試合でふざける人はいない。まぁ実際はいるかもしれないけど、基本的にいないだろうと観る側が信頼するために、勝った人にご褒美を用意してるわけです。

 

これはM-1なんかでも一緒で、「複数の芸人が出てきて漫才を披露する」というテレビ番組は年末年始に山ほどあります。

その中でM-1が特別な存在なのは、「順位を決めて、1番の芸人に巨大なご褒美がある」という緊張感を観る側が共有しているからです。

大切なのは1000万円でも冠番組でもなくて、芸人たちが真剣勝負していると感じられること。だからこそ、特に好きなコンビが出ていなくても観ていてドキドキする。

ローマのコロッセオ(負けたら死ぬ)も、カイジの鉄骨渡り(落ちたら死ぬ)も、演者が必死だからこそ観る側は興奮するんでしょう。

 

賞金にできること、できないこと

これは逆に言うと「真剣勝負であるという信憑性が観客にも共有されていれば、賞金は観戦の楽しさにほとんど影響しない」ということでもあります。

 

ちょもすさんが言及しているクーペレーションカップスマブラのコミュニティ大会は、誰もがそれが真剣勝負であることを自然に理解していて、賞金があっても多分観戦の楽しさはほとんど変わりません。賞金200万円のEVOが賞金が高い他の大会より価値があるのは、みんながEVOは特別だと信じているからです(カプコンプロツアーのポイントは抜きにしても)。

 

さらに別の意味として「賞金を吊り上げることで、真剣勝負であるという信憑性を力技で共有させられる」というのもあります。

シャドウバースの1億円は、シャドウバースどころかゲームをしていない層にすら「1億円もらえるなら真剣勝負なのだろう」と信じさせる効果がありました。

 

LJLについて考えると、去年からLJLを日常的に観ていた人≒LJLが真剣勝負であるとすでに知ってる人にとっては、賞金によって観戦が格段に楽しくなるということはないでしょう。むしろこれまであまり興味を持っていなかった人々へのアピールとして、1000万円という数字は意味を持つのだと思います。

 

最近では獣道のような「賞金はない(低い)けど注目度の高い真剣勝負の戦い」という大会があっても、その注目度をお金やスポンサーにつなげる方法もできてきているので、コミュニティの注目度と経済的リターンの落差は徐々に埋まりつつあります。

 

それでも、大会を観る人が何を楽しんでいて、賞金に何ができて何ができないかは知られた方がいいし、観る側にとって賞金の存在をどう受け止めればいいかも整理した方がいい。そんな風に思いました。