葱と鴨。

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今さらオルフェンズがおもしろかった話

ガンダムオルフェンズの全50話をいまさら一気に観た。

周りから「2期がひどい」と聞いていたのだけど、個人的にはむしろ1期から2期に入って面白くなり、「いつ破綻するんだろう」と思っていたらどんどん魅力的になっていって完結した。

とても議論の全ては追いきれないのですでに誰かが言いつくしたことかもしれないけど、私なりの感想を置いておきたい。

 

オルフェンズの物語には、大きく分けて2つのレイヤーが存在している。

1つが蒔苗やクーデリア、初期マクギリスが所属する「政治的闘争≒価値観」のレイヤー。

もう1つが鉄華団テイワズが所属する「経済的闘争≒金を稼いで成り上がる」のレイヤー。

この2つのレイヤーが基本的に独立して進行し、戦争=武力決着の場面でのみ合流する。

 

オルフェンズの最大の特徴は、主人公である鉄華団の戦いを「政治的闘争」ではなく「経済的闘争」に設定したことにある(過去作をすべて観ているわけではないけれど近いのはGガンダムか)。

ガンダムシリーズは主人公がモビルスーツパイロット≒武力担当であるという物語の構造上、主人公が直接理想を掲げることは少ないが、それでもWのリリーナやターンエーのディアナ、00のシュヘンベルグのような「理想を語る主人公サイドの人物」が配置されていることが多かった。

しかし鉄華団に目指すべき社会像や理想はなく、戦いの理由は単純に資本主義の中で成り上がること、つまり金と権力だ。

 

ガンダムの歴史をこの視点で振り返ると、1979年のファーストからしばらく戦いの舞台は「政治的に思想のことなる複数の陣営の戦争」である。背景にはもちろん、真っ最中だったアメリカとソ連の冷戦がある。

その後も時代の変化に応じてテロや非戦をテーマに取り入れてきたが、ほとんどの作品の中心には「政治的闘争」があった。能動的に参加するにせよ、受動的に翻弄されるにせよ、少年たちが戦う理由はある種の価値観・理想だった。

しかし2015年時点で少年少女が巻き込まれている闘争は何かと現実社会を見渡せば、それは明らかに経済的闘争であったことだろう。格差論が定着し、自己啓発もそれへの批判も一周して、それでもどうやっても逃れられない資本主義こそが現代の戦場だ。

 

その中で、鉄華団は敵のいない終わりのない闘争に突入していく。理想は実現すれば終わるが、成り上がりに終わりはない。一度は設定した「上がり」に到達できたとしても、すぐにまた次の闘争は始まってしまう。否、自ら始めずにはいられない。それが資本主義の重力だ。

 

1期ではクーデリア・蒔苗、2期ではマクギリスという政治的闘争を戦うキャラクターと手を組むことで話のスケール自体を大きく見せてはいるが、鉄華団は最後まで政治的理想を掲げることはしない。彼らを動かすモチベーションは徹頭徹尾「成り上がりたい」だけである。

それでも1期は辛うじて鉄華団とクーデリア・蒔苗の間で最低限の価値観の一致が保たれているが、2期に入ってマクギリスがパートナーになるとそれも消える。

しかもクーデリアは黒い商人のノブリスやヤクザのテイワズと手を組むタイプの手段を問わない政治家であり、マクギリスとラスタルの争いも単純な権力闘争である。つまりオルフェンズには「理想に準じる人」が登場しない。

その中で自分が組んだ相手の成り上がりに賭け、権勢を手にすることだけがオルガの行動原理になる。彼がよくいう「一度手を組んだら裏切らない」というのは、パートナーの価値観の正邪を問わず思考停止するという意味だ。

 

思考停止といえば、登場人物間の信頼関係の根拠が示されないのもオルフェンズの特徴だろう。オルガと三日月を筆頭に、オルガと鉄華団メンバー、蒔苗と支持者、マクマードと名瀬、ラスタルジュリエッタラスタルとガランモッサ、イオク様と部下、カルタ様と部下など、「固い信頼関係があるらしいが理由が明示されない」ペアがあまりにも多い。信頼関係の根拠がまともに説明されたのはタービンズぐらいだ。

なので、普通に考えると裏切りフラグが揃っているような時でも(蒔苗は裏切られると思ったし、ガランモッサも裏切ると思った)、彼らは既存の人間関係の通りに行動する。そこにあるのは関係性の変わらなさ、思考停止だ。あらゆる勢力のあらゆる人物が、驚くくらいに思考停止している。

なまじ昭弘やガエリオなどサブキャラクターの周辺では人格の更新が起こる分、主要キャラクターの変わらなさ、成長しなさがさらに浮き彫りになっている。

この言い落としが意図するところを想像すると、こんな仮説が成り立つ。

「その人間が誰を信頼するかは偶然に属することで、意思決定や選択や、まして価値観の一致などというものではない」

そんな、シニカルで決定論的な世界観。正義の実行ではなく、ただの戦争、ただの闘争を描く。その意味で、オルフェンズはファーストの意志を継ぐ存在とも言えると思う。

人は理由なく簡単に死ぬし、全てを見通す英雄はいない。誰もが状況に翻弄されながら目の前の決断をする。それが集まって偶然的に悲喜劇が生み出される。

「ごろっと世界を提出して何を感じるかはお任せ」系の作品であるのは間違いないので読後感がクリアとは言い難いけれど、多くのものを引き出せる豊かな作品であると感じた。オルフェンズについてはもうしばらく考えてみたい。