葱と鴨。

文化系、ゲーム、映画、ジェンダー。https://twitter.com/cho_tsugai

スポーツっていうシステムそのものが時代とズレはじめているかもしれない。

最近、スポーツっていうシステムが時代とズレてきたと感じることが増えた。10年近くスポーツを仕事にしてきたけれど、そのズレが急速に広がった感覚があるのはここ1~2年だ。

それは野球がどうとかサッカーがどうだっていう種目単位の話ではなくて、「自分じゃない誰かの勝敗に一喜一憂する」というスポーツの性質自体がどうにも現代的じゃないのでは、という感覚だ。

 

きっかけは「推しチームが負けるなら試合を見たくない」というツイートだった。

その人は、応援しているチームが勝つのを見るのはプラスだけど、負けるのを見るのはマイナスで、トータルするとマイナスだから見たくないと思っている。

で、当たり前だけど、この「負けるかもしれないから見ない」現象はアイドルやYouTuberのファンには起きない。HIKAKINはいつだって楽しく愉快で、動画を開く前に「今日は辛い思いをしないかな」って心配する人はいない。自分を楽しませるためにHIKAKINが最適な形に整えてくれているだろうという信頼感がある。

 

でもスポーツはファンに緊張を強いる。「真剣勝負、何が起こるかわからない、勝てば天国まければ地獄」というハードな世界観なので、ファンの半分は負けた側と一緒にうなだれることになる。辛い率なんと50%だ。

映画も漫画もYouTubeも、というか世の中のエンタメコンテンツのほとんどは95%以上のファンが幸せな気持ちになれるのに、スポーツだけ50%。こんなドSコンテンツよく流行ったなと思う。本当に、なんで流行ったんだろうか。

 

実はスポーツを運営してる人の間ではこの問題は有名で、だから「負けても楽しんでもらうために」ってショーアップしたりするんだけど、それだってよく考えたら変な話だ。

嵐を見たければオリンピックの開会式である必要はないし、テイラー・スウィフトを見にスーパーボウルへ行く必要もない。本人たちのコンサートへ行く方がいいに決まってる。

スポーツイベントに楽しいショー部分を追加して感情収支を底上げすることはできるけど、それならショーだけでいいのだ。わざわざ辛い率50%のスポーツをくっつける理由がなくなってしまう。

 

実際にスポーツ離れは進んでいて、野球もサッカーもテニスもゴルフもファンの高齢化が止まらない。スポーツの種目同士の奪い合いじゃなくて、スポーツというギミックを若年層が避けはじめている。少なくとも、20世紀と同じレベルで支持されるエンタメではなくなってきているのだ。

 

もちろん短期的には、人気が上がるスポーツもあるだろう。eスポーツは、まだもうしばらく大きくなると思う。

若年層にだって真剣勝負というギミックを好む人はいるし、スポーツ内の勢力争いではeスポーツがしばらく勝ち続ける。それは全然疑っていない。

 

でも多分、スポーツっていうギミックの価値はゆっくり落ちていく。ゲームにとって最大の相棒はスポーツじゃなくてアイドル≒ストリーマーでしたっていう未来は全然ありそうだ。というより2020年の時点で、HikakinGamesや兄者弟者より視聴数の多いeスポーツシーンは日本に存在しない。この差が今後つまることってあるんだろうか。むしろ開くんじゃないだろうか。

それに、SNSの普及以降に起きている「他者の大事件より自分の日常」という流れも無視できない。他人がやってる世界一決定戦より、自分の昼食を素敵に撮影する方が圧倒的に”自分ごと”だ。もしかすると影響はこっちの方が大きいかもしれない。

 

eスポーツの世界の端っこにいると、「ゲームの試合をプロ野球Jリーグや甲子園みたいにしよう」っていう話は本当によく聞く。確かにその話は完成形が想像しやすいし、大人受けもいい。

だけど、スポーツっていうエンタメジャンルそのものの地盤沈下はもう始まっていて、その中でどうするかは早めに考えておいた方がいいと思う。

シリアス化して辛い率50%を引き受けるか、アイドル化して勝敗はおまけ程度に扱うか。ぱっと思いつかないけど他にもルートはいくらでもある。向こう5年だけを考えるか、50年単位で考えるかでも発想は変わってくるだろう。

そこそこ長い間スポーツの仕事をしてきた人間として、最近はそんなことを考えている。