葱と鴨。

文化系、ゲーム、映画、ジェンダー。https://twitter.com/cho_tsugai

スポーツっていうシステムそのものが時代とズレはじめているかもしれない。

最近、スポーツっていうシステムが時代とズレてきたんじゃないかと感じることが増えた。長らくスポーツを仕事にしてきたけれど、ここ1~2年でそのズレが急速に広がった感覚がある。

野球とかサッカーとかっていう個別の種目の話ではなくて、「自分じゃない誰かの勝敗に一喜一憂する」というスポーツの仕組み自体が時代に合わない、という感覚がどんどん強くなっている。

 

きっかけは「推しチームが負けるなら試合を見たくない」というツイートだった。

その人には応援してるチームがあって、そのチームが勝つのは見たいけど、負けたらマイナスで、期待値を計算するとマイナスだから見たくない、という。

コンテンツを見る前に「今日は不快にならないといいな」なんて心配するのは、アイドルやYouTuberのファンには起きない現象だ。ストリーマーはいつだって楽しく愉快で、動画を開く前に「今日は大丈夫かな」なんて心配をする人はいない。

 

でもスポーツはファンに緊張を強いる。「真剣勝負だから何が起こるかわからない。勝てば天国、負ければ地獄」というハードな世界観なので、ファンの半分は負けた側と一緒にうなだれる。辛い率はなんと50%だ。

映画でも漫画でもYouTubeでも、エンタメコンテンツっていうのは大抵95%以上のファンを幸せな気持ちにできるのに、スポーツだけ50%。こんなもの流行るわけがない。「損したくない」気分が高まる2020年代ならなおさらである。

 

この「負けたらマイナス問題」はスポーツ運営をする人の間では有名で、「負けても楽しんでもらうために」前後にショーを入れたりするんだけど、それだってよく考えたら変な話で、

嵐を見るためにオリンピックの開会式へいくのは無駄だし、テイラー・スウィフト見たさにスーパーボウルのチケットを取る必要もない。ソロコンサートへ行って2時間パフォーマンスを見る方がいいに決まってる。

つまり、スポーツイベントに楽しいショーを追加してトータルの感情収支を底上げすることは可能だけど、それならショーだけでいいのだ。わざわざ辛い率50%のスポーツをくっつける理由がなくなってしまう。

 

実際問題として若年層ほどスポーツ離れは進んでいて、野球もサッカーもテニスもゴルフもファンの高齢化が止まらない。スポーツの種目同士の奪い合いじゃなくて、スポーツというギミックを若年層が避けはじめている。少なくとも、20世紀と同じレベルで支持されるエンタメではなくなってきている。

 

もちろん若年層にだって真剣勝負というギミックを好む人はいて、eスポーツはその受け皿の筆頭なので、しばらくは成長が続くと思う。

 

でも多分、スポーツっていうギミックの価値はゆっくり落ちていく。ゲームにとって最大の相棒はスポーツじゃなくてアイドル≒ストリーマーでしたっていう未来は全然ありそうだ。

というより2020年の時点で、Hikakinさんや加藤純一さんより視聴数の多いeスポーツ大会は日本に存在しない。スタヌーさんやはつめさんよりフォロワーの多い競技プロゲーマーも存在しない。この差が今後縮まることはなくて、たぶん広がるんだと思う。

 

eスポーツの世界の端っこにいると、「ゲームの試合をプロ野球Jリーグや甲子園みたいにしよう」っていう話は本当によく聞く。確かにその話は完成形が想像しやすいし、大人受けもいい。瞬間風速もでやすい。

なにより私個人は人間離れしたトップゲーマーたちが人生をかけて競争してるのを見るのが好きなので、その人たちがゲームに専念できるくらいの収入や社会的尊敬を得られるといいなとは思っている。でも「トッププレイヤーの競技を観戦する」っていうエンタメの地盤沈下は残念ながらもう始まっている。

友達とボイスチャットつないで自分でプレーするゲームや、魅力的なパーソナリティが双方向でコミュニケーションしながら観客を楽しませるストリーミングの方がサイズとしては大きくなるだろう。「競技シーンこそが最大のコンテンツ」という野球やサッカーの姿は、テレビの時代≒20世紀限定の一時的な現象だったのだ。

だからもし、それでも競技を愛し、なんならそれを仕事にしようと思う人がいるならば、早めにどんな形が実現可能なのかを考えておいた方がいい。シリアス路線を維持して辛い率50%のドSコンテンツとして頑張るか、アイドル化・バラエティ化の道を進むか。まだ見えていないルートだってあるだろう。向こう5年だけで考えるか、10年20年の単位で考えるかでも発想は変わってくる。

そこそこ長い間スポーツの仕事をしてきた人間として、最近はそんなことを考えている。