葱と鴨。

文化系、ゲーム、映画、ジェンダー。https://twitter.com/cho_tsugai

日本人は性と暴力の話が大好き たぶんあなたの想像よりずっと

ここに2つのランキングがある。

これは文春オンラインと現代ビジネスという日本の2大総合系ニュースサイトのランキングで、つまりこれは「日本人が好きなものランキング」だ。

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文春オンラインの週間ランキング

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現代ビジネスの月間ランキング


 

眺めて気づくのは、「性」と「暴力」の話題ばかりということだ。6位以下を見てもこの傾向は変わらない。

文春オンラインで目立つのは性犯罪・ヤクザ・芸能人の恋愛・皇室。

現代ビジネスでは映画ドラマ評・近隣トラブル・教育・若者論・投資。

共通して多いのはセクシャルマイノリティと売買春。

(あとタイトルに強調のカギカッコとツメカギがとにかく多い。どちらも使ってないタイトルは50本のうち1つだけ)

 

日本人の関心を反映したランキングが「性」と「暴力」で埋め尽くされているというのは身も蓋もなく、そして興味深い現象だ。

 

それでも性の話が興味をひくのはまあわかる。恋愛話は鉄板のトークテーマだし、アイデンティティや承認の話として性が出てくるのも自然だ。下世話な方に広げても、ある種のエンタメ的に性の話が消費できるのは納得できる。

 

一方で私にとって謎度が高いのは「暴力」に強い興味を持つ人たちの存在である。

人気の記事をみていくと、クマに足を食べられたとか、体のどこを何で何回刺したとか、そういう場面が異様に細かく描写されているものが多い。

「暴力」に「性」を合体させた性犯罪の登場回数も多く、その描写も気持ち悪くなるほど具体的でグロテスクだ。

何を求めてこれを読むのだろうと思って反応を見ると「許せない」「人間じゃない」「怖い」「気持ち悪い」「死刑だ」としっかり不快な気持ちになっている。いやそれなら見なければよいのでは…

多くの人は暴力シーンが大好きで、目に入ったらクリックせずにはいられず、しかも見た後には不快になっている。不思議でしかたない

 

もちろん私も、猟奇犯罪コンテンツが好まれる回路について頭では最低限わかっている。社会学では「逸脱行為を共有することには社会の結束を高める効果があって…」と習ったし、カイジ利根川も「危険な場所にいる人を見ることで自分が安全であることの愉悦を感じる」と言っていた。

その論理でいけば、逸脱者の代表格である犯罪者に石を投げるのは快感だし、クマに食べられている人を安全な場所で見るのも快感なのだ。

というか私はもともとスプラッターが苦手で暴力描写がキツイ映画は途中でギブアップする人間なので、全く実感がわかない(評価の高い「孤狼の血」も無理だった)。

凶器の刃渡りが何センチだったとか言われても、その情報は一体どんな意味があるのだろうと思ってしまう。加害者や被害者の卒業アルバムもむしろ見たくない。家にはテレビがないのでワイドショーはそもそも見られないし、タイムラインにその手のニュースが流れてきてもクリックした記憶が全くない。

犯罪者の背景を分析して「現代において人間を追い詰めるのは何か」みたいな抽象的な論評になっているものは手に取っても、具体的な描写は関心の持ち方からわからない。

 

なんだけど、日本有数の取材力と企画力を持っているはずの大手メディアが何年もかかってたどりついた結論が「日本でPV稼ぐには殺人と性犯罪が最強」だったことの意味は重い。この問題を考えているとどうにも暗い気持ちになってしまい、私はまだ「できれば関わりあいにならずに生きたい」以上の感想にたどり着けずにいる。

人のアテンションを惹くことを仕事にするエンタメ界隈の人は、この問題についてどう考えているんだろうか。広告代理店やYouTuberは何を考えているんだろうか。わかって使っているのか、わかって避けているのか、バレないようにエッセンスだけ忍び込ませるのか、それとも意識していないのか。ぜひ話をしてみたい。

 

~余談~

2サイトに近い規模を持つ東洋経済は、もう1つの強ジャンル「お金」に特化している。

ちなみに3つのサイトのキャッチコピーはこんな感じで、

東洋経済東洋経済オンラインはビジネス、経済情報、就職情報など、ビジネスパーソンのための情報が充実

文春オンライン:文春オンラインは世の中を驚かせるスクープから、毎日の仕事や生活に役立つ話題までお届けする情報メディア

現代ビジネス:「現代ビジネス」は、第一線で活躍するビジネスパーソン、マネジメント層に向けて、プロフェッショナルの分析に基づいた記事を届ける新創刊メディア

 

お金に特化した東洋経済と、下世話であることを隠さない文春オンラインに対して、現代ビジネスはキャッチコピーと内実に若干の乖離を感じる。第一線で活躍するビジネスパーソンは1948年の猟奇事件について知る必要がある! ということなら話は別だが…